いわゆる外部労組から団体交渉を申し込まれた場合、その内容が義務的団交事項に該当するかについて検討する必要があることに加えて、そもそも自社が団体交渉を申し込んできた労働組合・労働者との関係で労働組合法7条の「使用者」に該当するのか、という点も検討が必要と考えられます。

義務的団交事項の問題が団体交渉の対象の問題であるのに対し、「使用者」であるかの問題は団体交渉の主体の問題であるといえます。

近年においては労働環境をめぐる法律関係が複雑になっており、自社と雇用契約を結んでいる従業員以外の他社の従業員も自社従業員と一緒に労働をしていることがよくあります。

この場合、従業員の労働条件を決定している「使用者」がどの会社であるかの判断が困難な場合があり、ひいてはどの会社が義務的団交事項について当該従業員・労働組合と交渉すべき使用者であるかの判断が困難となります。

この「使用者」概念については、構内業務請負における発注企業の「使用者」性が問題なった事案である朝日放送事件(最判平7年2月28日)が有名です。

この事件において、裁判所は「労働組合法第7条にいう『使用者』の意義について検討するに、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である」と判断しています。

すなわち、労働組合法上、「使用者」とは労働契約を締結している会社が該当するのが原則ですが、例外的に労働者の基本的な労働条件について使用者と同視できる程度に決定できる場合には他社も労働組合法上の「使用者」に該当する、ということとなります。

したがって、例えば、自社の子会社の従業員が加入する外部労組が親会社に団体交渉を申し込んだ場合、原則として自社(親会社)は「使用者」に該当しませんが、親会社が子会社従業員の労働条件まで決定していた場合には「使用者」に該当する可能性があるので注意が必要です。

次回は、一見すると「使用者」でないため団体交渉に応じる義務はないように思われる企業が、「使用者」に該当するとされた具体例をご説明していきます。