契約書レビューのテクニックと注意したいチェックポイントを弁護士が解説

企業活動を営む上では契約書を交わす場面が数多く出てくるため、社内で契約書のレビュー業務が必要になってくることも多いと思います。

しかし、初めて契約書のレビューをする場合、具体的にどこをどのように修正したらいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

契約書レビューでは、契約に至るまでの交渉背景や相手方との関係、その契約に固有の事情などを考慮する必要があるため、機械的な処理には馴染みません。ただ、一般的によく用いられる契約書レビューのテクニックや注意したいポイントは存在するので、これを知っておくと契約書レビューをする際のヒントになります。

そこで、この記事では、契約書レビューを行う際に覚えておくと便利なテクニックと注意したいチェックポイントについて解説します。

1. 契約書レビューのテクニック

契約書のレビューでは、権利義務関係を明確にすることと、法的リスクを最小限におさえることという2点を意識する必要があります。

このような観点から契約書のレビューを行うにあたっては、以下のようなテクニックを覚えておくと便利です。

1.1 損害賠償額に上限を定める

条項例:甲が本契約に関して乙に対して負う損害賠償の額は、第●条に基づき甲が乙より受領した金額を超えないものとする。

民法上、契約上の義務を履行せずに相手方に損害を与えた場合には、免責事由が認められない限り損害賠償をする責任を負います。

そして、場合によっては多額の損害を賠償しなければならなくなる可能性もあります。

そこで、万が一損害賠償責任を負うことになったとしても、損害賠償額に上限を定めておくことで、多額の損害賠償をしなければならないという事態を回避することができます。

ただし、損害賠償額の上限を定める場合、自社が多額の損害賠償責任を負う可能性があるのか、もしくは相手方に請求しなければならない可能性が高いのかについて考慮しておく必要があります。

たとえば、業務委託契約では、委託者が受託者に対して多額の損害賠償責任を負う可能性はあまりありません。なぜなら、委託者は基本的には業務委託料を支払うという金銭的な義務しか負っておらず、損害賠償責任を負うとしても業務委託料額の範囲を大幅に超えることはないからです。

他方、受託者は委託を受けた業務ができなかった場合など、委託者に対して多額の損害賠償責任を負う可能性があります。

そのため、業務委託契約の場合、委託者にとっては損害賠償額の上限を定めるメリットはあまりありませんが、受託者にとっては損害賠償額の上限を定めるメリットが大きいといえるでしょう。

反対に、委託者にとっては損害賠償請求をする際に損害賠償額の上限があると十分な損害賠償を受けることができないというリスクがあるため、損害賠償額の上限がない方がいいケースもあります。

1.2 損害賠償における債務者の帰責事由を限定する

条項例:甲が本契約に違反して乙に損害を与えた場合、故意又は重過失のある場合に限り、その損害を賠償する責任を負う。

民法上、契約上の義務に違反したとしても、帰責事由がない場合には損害賠償責任は免責されます。この帰責事由については、契約などの義務の発生原因や取引上の社会通念に照らして判断されることになります。

改正前の民法では故意または過失がある場合には損害賠償責任が発生するとされていたため、民法改正後も過失があれば帰責事由があると判断される可能性があります。

そこで、損害賠償責任を負うのは故意または重過失がある場合に限定しておくことで、軽過失があったとしても責任を負わないようにすることができます。

この点、前述の業務委託契約書の例でいうと、過失や重過失で債務不履行をしてしまうリスクがあるのは受託者の場合が多いため、重過失がある場合に限定することにメリットがあるのは受託者の場合が多いということになりますし、委託者としては軽過失であっても責任を負わせる条項としたいと考えるのが自然ということになります。

1.3損害賠償の範囲を限定する

条項例①:甲又は乙が、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、直接かつ現実に生じた通常の損害につき賠償する責任を負う。

民法上、損害賠償が認められる損害の範囲は通常損害と予見可能性のある特別損害です。

この民法上の原則よりも損害賠償の範囲を限定しておくことで、万が一損害賠償責任を負うことになっても多額の損害額となってしまうことを避けることができます。

条項例②:甲又は乙は、本契約の履行又は不履行に関して相手方又は第三者に損害(弁護士費用を含む)を与えたときは、これを賠償する責任を負う。

判例からすると、契約違反による損害賠償請求において弁護士費用は損害として認められにくい傾向にあります。

そのため、あらかじめ契約において弁護士費用も損害の範囲に含めておくことで、弁護士費用についても確実に損害として認めてもらうことが可能になります。

この場合についても、自社が損害賠償請求を受ける立場にあるのか、損害賠償請求をする立場にあるのかによってこの条項を入れるか削除するかの判断は変わってくることになります。

1.4 平等な内容にする

相手方から契約書が提案される場合、基本的には相手方に有利な内容となっているケースがほとんどです。

そのため、自社が一方的に義務を負う内容や、相手方にのみ有利な権利が規定されていることがあります。

たとえば、任意解除条項として、「甲は、乙が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる」というように、相手方にのみ解除を認める旨の規定がされていることがあります。

しかし、これでは万が一自社から解除が必要な状況になっても、民法上認められている解除にあたらなければ解除ができないという事態に陥ってしまいます。

そこで、自社でも任意解除が認められるように、以下のように両当事者に任意解除を認める規定とすることが考えられます。

条項例:甲及び乙は、相手方が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる。

1.5 用語の意味を限定する

用語の意味を限定することで、契約によって負う義務を軽減することが可能になります。

たとえば、秘密保持契約においては、秘密保持義務の対象となる秘密情報の定義が重要な意味を有しています。

秘密情報を開示する側からは、「本契約における秘密情報とは、本契約の遂行により知り得た相手方の技術上又は営業上その他業務上の一切の情報をいう」というように、秘密保持義務の対象となる情報に漏れがないよう秘密情報について包括的な規定を提案されることが多いです。

しかし、秘密情報を受領する側としては、秘密情報として管理しなければならない情報の範囲が広くなってしまうと管理コストが増えてしまいます。そこで、秘密情報を受領する側としては、「相手方から秘密である旨の文書による指定がなされた情報」という文言を加えることで、秘密情報の範囲を限定することが可能になります。

条項例:本契約における秘密情報とは、本契約の遂行により知り得た相手方の技術上又は営業上その他業務上の情報のうち、相手方から秘密である旨の文書による指定がなされた情報をいう。

2. 契約書レビューで注意したいチェックポイント

契約書レビューで特に注意が必要なチェックポイントは、以下の3点です。

2.1権利義務の内容

契約書の主たる目的は、それぞれの当事者がどのような義務を負い、またどのような権利を有するのかを明確にすることです。

そのため、契約書レビューでは、それぞれの当事者の権利義務の内容について、正確に合意内容が反映されているかをチェックする必要があります。

たとえば、売買契約の場合、目的物は何か、目的物の引渡しはいつどこで行うか、代金はいくらをいつどうやって支払うのかといった点が重要なチェックポイントとなります。

2.2存続期間

契約においては、契約期間も重要な意義を有しています。

たとえば、取引基本契約のように継続的な取引を前提とした契約において、できる限り取引を継続したいと考えているにもかかわらず、自動更新条項がなく1年で契約が終了してしまうことになっていたり、相手方からいつでも解約がなされてしまう可能性のある中途解約条項が規定されていたりするケースには注意が必要です。

安定した取引関係の継続を希望する場合は、自動更新条項を入れておいたり、中途解約条項を削除したりという対応をとっておきましょう。

2.3 管轄裁判所

契約書は相手方とトラブルになってしまった際に重要な役割を果たします。

そして、相手方とトラブルになった際には、話し合いで解決できなければ訴訟で解決しなければならなくなることもあります。

民事訴訟法上、基本的には相手方の所在地を管轄する裁判所に訴訟を提起することになるため、相手方の所在地が遠方の場合には余分な労力とコストがかかってしまいます。

そこで、契約において自社の本店所在地を管轄する地方裁判所や、自社で対応可能な地方裁判所を合意管轄裁判所として規定しておくことが考えられます。

3. まとめ

契約書レビューのテクニックは、ただ機械的にあてはめていけばいいというわけではなく、契約書の内容に応じて臨機応変に用いる必要があります。

自社の契約書の場合、どこをどのように修正したらいいのかわからないという方は、お気軽に弊所までお問い合わせください。